無用のものも役に立つ

 健太です。

 今日のお話はちょっと難しく、長くなるかもしれません。

 

 もし人に、医師、自衛隊員、音楽家のうち、最も無用(あるいは不要)の職業はどれかと尋ねたら、9割位の人が音楽家と答えるのではないでしょうか。私でさえそう答えます。もっともこれは比べる相手が悪過ぎるのでそもそも質問自体が良くありませんが、音楽家が根本的な社会機能の維持に何ら役に立っていないことを如実に物語っています。では音楽家は世の中に無くてもよいのでしょうか?


 人間は幸か不幸か他の動物よりも脳、中でも大脳新皮質が著しく発達しています。これにより、人間は単なる生物種の「ヒト(ホモ・サピエンス)」ではなく、自らの中に文化を持った「人間」として生きています。つまり人間は衣食住さえ足りていれば生きていける訳ではないのです。

 

 文化とは何かという厳密な定義は簡単にはできませんが、ここでは「生き延びるためにではなく、心に潤いを与えるために行う活動」としておきましょう。こう定義すれば、音楽は確かに文化です。その他、絵画、舞踊等の芸術やスポーツも文化ですし、博打もまた文化です。人間はこういった文化によって心に潤い、言い換えるなら栄養を与えて生きている訳です。

 もう随分前に読んだ本に書いてあったことなのでうろ覚えですが、戦争中空襲で焼け出された人が、奇跡的に残った映画館に映画を見に行ったという事例があったそうです。おそらくこれが人間という存在の本質です。


 音楽家は直接的に社会機能維持に貢献することはできません。ですが、社会機能維持者やその他一般的な職業の方に音楽を聴いてもらって、心に潤いをお届けすることはできます。そういう意味で、無用な音楽も役に立つという訳です。社会の「経糸」を潤す「横糸」、これが我々の役割だと考えています。


 写真は、往年のテレビ番組「ノックは無用」をイメージしたものです。